国際脳トラベリングサブジェクト(TS)プロジェクト


トラベリングサブジェクト(TS)法は多施設共同研究に適した機種間差補正法(Yamashita et al., 2019)で、MRI機器からくる計測バイアスと研究デザインからくるサンプリングバイアスを適切に分けることができます。そのため、BMB HBMでもトラベリングサブジェクト計測を行い、多施設共同研究を推進していきます。また、これまでの多施設共同研究で得た膨大なデータを無駄にせず、既存のデータとも合わせて補正を行うため、過去のプロトコルを用いてもトラベリングサブジェクト計測を行います。
 
今回の計測では新たに一般線形混合モデル(GLMM)による補正法を開発しています。なぜなら、CRHDやHARPプロトコルは計測時間が1回あたり60分と、既存のプロトコル(20分)より長く、また全国13施設と数も多いことから、実際のTS被験者の負担を軽減するためです。TSデータを確実に機種間差補正に使用できるため、ハブアンドスポークモデルを採用しました。具体的には、すべての被験者はハブサイト(3施設のうち1施設以上)で、Prisma機を用いてCRHDとHARP計測を受けていただきました(合計約2時間、下図の赤線部分)。また、事務局が定めたほかの施設(3施設程度)でHARP計測を受けていただきました(合計約3時間)。事務局では設置場所との移動距離、機種、研究プロジェクトを勘案し、どう回っていただくかを事前に設定しました。リクルートされた施設では、2回以上同じ計測を受けていただき、同一機種、同一プロトコルでの信頼性を検証できます(合計約2時間)。計測間隔が空くと信頼性が落ちる可能性があるため、どれくらいまで空けても良いかの検証を合わせて行っています。
 
GLMM手法の利点として、TS計測の柔軟性があります。TS計測を各サイトの実情を勘案して、他のサイトとの結合を強くしたりできます。また、この手法だと新規参画のサイトを比較的簡便に追加することができます。実際に、BMB HBMではプロジェクト開始後に4つのサイトが機種更新を受け、新たにGE機の追加参画を行いました。国際脳TSプロジェクトでは事前に計画的にTS計測を行い、機種前後のTSデータにより機種間差補正を可能なようにしてあります。
 
国際脳TSプロジェクトの第一回では、各サイトから5名以上のTS被験者を募り、合計75名の被験者に協力を頂く計画で行いました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020年3月末でいったん中断しましたが、74名の被験者にのべ405計測(89%)を受けていただきました。
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図.国際脳TSプロジェクトで計画されているTS計測とデータ結合
2019~2020年の第一回TSでは、74名の被験者から405計測を受け、368のデータ結合(スポーク)が生み出された。

国際脳が関与したTSデータセット
第一回TSデータ(2019~2020年):国際脳関係機関に配布中。採択論文あり。
第二回TSデータ(2021~2022年):課題fMRIのハーモナイズ検証、および参画機関の機種アップデート対応のため実施。共有準備中。
第三回TSデータ(2022年開始):GE機の国際脳プロトコル検証とハーモナイズのため実施中。