Traveling Subject(TS)法による機種間差補正法

 

多施設で取得したMRIデータを用いて統計的推量や自動診断を行う場合は、異なるMRI装置や撮像プロトコルによる違い(測定バイアス)や、各施設にてMRIを受ける被験者グループの生物学的な違い(標本バイアス) による性能の劣化がおきることがあります。そのためそうしたバイアスを除去する“ハーモナイゼーション”法による解決が必要とされています。国際脳では、データを取得するプロトコルのハーモナイゼーション(HARP)に加え、画像の前処置のハーモナイゼーション、被験者グループの均一化(トラベリングサブジェクト)、統計学的なハーモナイゼーションなどが含まれます。

従来の統計学的なハーモナイゼーションでは、データに違いを与える要因(測定バイアスや標本バイアス)を共変量として考慮した統計学的なモデル ― 一般線形モデル(GLM)、ベイズアプローチ(Fortin et al., 2018; Fortin et al., 2017)、メタ分析アプローチ(Okada et al., 2016; van Erp et al., 2016) など ― が提案されてきましたが、これら2つの要因を区別することができませんでした(Yamashita et al., 2019)。もし大規模なサンプルのデータセットが利用可能であれば、機械学習と深層学習による施設間交差検証を用いたバイアス除去が可能となります(Nunes et al., 2018)。しかしこの方法は画像間で安定した特徴だけを部分的に抽出して用いるため、その学習結果を他の研究データに転用(汎化)できるかは分かりません。
 
国際脳で行うトラベリングサブジェクト(TS)による手法は、各施設での撮像データの施設間差を均一化する強力なハーモナイゼーションに有用と考えられています(図)(Yamashita et al., 2019)。このTS法では、すべての施設に同じ被験者が参加しMRI画像の撮像を受けます。施設間で同じ参加者のデータが得られるので標本バイアスを最小にでき測定バイアスを推定することができます。

これまで行われてきたAMED脳プロBMI課題(https://bicr.atr.jp/decnefpro/)では、複数の施設で複数の精神疾患患者および健常者を対象に安静時fMRIと構造MRIを撮像し、それらの施設で9人のTS法の参加者がMRI計測を繰り返し行いました。各参加者群(統合失調症、うつ、自閉症と健常者)の測定バイアスと標本バイアスを、個人要因と(疾患判別のターゲットである)疾患特有の因子から分離することができ、統計的ハーモナイゼーション法を組み合わせることで測定バイアスを29%低減し、信号対雑音比を40%改善できることがわかりました。国際脳ではこれらの先行技術をさらに発展・拡張し、より汎化性能・精度の高いハーモナイゼーション技術を開発します。

 

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● References